「口の中には、久しぶりの外食の肉汁の旨味が残り、頭の中には、一瞬の悔いが残った」――小銭入れから百円玉三枚を取り出し、いま食べた牛丼の支払いをする真一。丼にこびりついた一粒の米を見ながら、その胸に去来するものは何だったのか?思いを込めて飛び込んだ通販カタログの制作現場だったが、いつしかその不条理な世界に耐え切れず、真一は去る。しかし、家族持ちの真一を待ち受けていたのは、さらに過酷な現実だった。炎天下の葬祭場の車整理、電車の洗車係……。書いた履歴書は20枚近くになっていた。ネットショッピングの原点、カタログ通販。昭和の時代を席巻した、その制作現場の舞台裏を活写するとともに、家族を支える一人の男の人生の機微を描いた、著者渾身の「自伝小説」だ。あなたもきっと、そこにあなた自身を見るに違いない。